第三十七回 「寺に歴史あり・心行寺」

心行寺全景。静かにたたずむ立派なお寺です

清澄通り沿いに、ひっそりとたたずむお寺、心行寺。なんとなく、通り過ぎてしまいそうな静かな雰囲気のお寺で、ここにお墓がある人以外では、七福神めぐりのほかには、まず立ち寄ったことがないお寺といえるでしょう。しかし、このお寺には、古い、そして深い歴史が刻まれています。その歴史の深さは、実際、驚きに値するほどのものです。

心行寺の開基であるという女性、養源院の墓だそうです。こんなものがまだ残っているとは、ですね。

深川七福神、福禄寿の六角堂。歴史は新しそうですが、立派です。

江東区では最も古いものらしい宝塔

幕末の名妓の立てたという塔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この心行寺、もともと八丁堀にあったものが、寛永年間にこの地に移されたものだそうです。浄土宗。開基は、養源院、という女性で、あの錦帯橋をつくった岩国藩主の奥さんです。この養源院の墓が、ちゃんと奥の墓地に残っています。なんとなくフツーにあるので、見過ごしてしまいがちですが、これはすごい。

入ってすぐのところには、深川七福神の福禄寿の六角堂が、福禄寿の像とともにあります。ただ、深川七福神そのものは、新しいもの、のようですね。江戸の昔から、という感じではありません。

その奥に、深川にあるものでは、もっとも古い石造物だという宝塔があります。その隣には、幕末の名妓だった直、という女性が夫の供養のために立てたという塔があります。この直、という女性、有名な清元の作曲者として知られ、また、向島一帯に楓を植え、それが向島名物になったりしたそうです。このあたりは、以前紹介した「芸者島次」が不動尊にさくらを植えた話にそっくりですね。幕末から明治期に、芸妓が桜や楓を植えるのが芸者の心意気としてはやったんだろう、と想像できます。この直、芸妓をやめてからは、料亭をやって繁盛したそうです。夫は笛の名手。名妓として知られた直を「身請け」させ、料理屋まで開かせられるんだから、たいそうなお金持ちだったに違いありません。

江戸時代には、満願成就や縁結びのお地蔵様として信仰を集めたそうです。すでに全身つるつるになったお姿が、集めた信仰の厚さを思わせます。

心行寺の本尊や、奥の墓地にある阿弥陀如来は、元禄時代くらいまでさかのぼる由緒正しいもの。ただ、もっと面白いのは、入り口近くにあるお地蔵様。江戸時代のもので江戸当時、、縁結びのお地蔵様として大変信仰を集めたのだそうです。お姿は、もはや完全にツルツル、お顔もお姿もすでに判然としません。江戸時代の石造物でも、だいだいもっと状態が良いものが多いのですが、石の種類のせいなのか、まったくツルツル。しかしですね、こう考えるどうかな、このお地蔵様を撫でると、縁結びが出来る、とか、そういう信仰があった、のかもしれません。だから、このお地蔵様は、たくさんの人に撫でられて、こんなにツルツルになってしまった。これはあくまで推測ですが、こんな風に考えると、このツルツルのお地蔵様、江戸の庶民の信仰を集めた、ありがたくてやさしいお地蔵様に見えてきませんか?

江戸時代から、平成の現代まで、先祖代々の墓。松本家は、深川の二軒茶屋のひとつ、松本の家系らしいです

松本家の墓、古いほう。

さて、奥の墓地にも、まだまだ歴史が眠っています。先ほどの養源院の墓だけじゃありません。中央にある「松本家先祖代々の墓」資料を見ますともっと古めかしい、江戸時代からのお墓だったようですが、不便になってリニューアルしたようで、ぴかぴかになってます。しかし、とにかく、江戸時代から、平成の現代に至るまで延々と、墓石に名が刻まれています。江戸時代、といっても幕末とかではなく、中期くらいからですから、これはすごいです。すごいぞ、松本家、とお思いでしょうが、この松本家、もともと、以前に「江戸のグルメタウン」でご紹介した、富岡八幡宮にあった有名な料理屋「二軒茶屋」のひとつ「松本」の家系だそうです。その家系が今まで続いている、というのは大変なことですね。となりにある松本家の墓も、江戸時代続いていますが、これも、係累なんでしょうね。あっ、ただ、これは私の勘違いかもしれません。確認したわけではないので。現存する松本家の皆様に、ご迷惑のかからないよう、これを読んだ読者の皆さんも、そっとしておきましょう。何せお墓ですから。

ほかにも、この心行寺の墓地には、江戸から続く「先祖代々の墓」がごろごろあります。資料を見ると、江戸時代のそれなりの有名人の墓もあるようです。まさに、寺に歴史あり、墓に歴史あり。この静かな心行寺の中に、これだけの歴史が残されていることに、正直圧倒されました。

なんとなく隅っこに集められた仏像群。これも由緒ありそうですよね。

この心行寺、深川七福神めぐりをなさった方は必ず訪れているわけですが、足早に立ち去ったりせずに、ゆっくり寺域を散策なさってみることをお勧めします。ただ、あくまで静かに。なんといっても、このお寺には静けさが似合います。

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