第十九回 「富岡八幡宮と永代寺・まとめ」

今までのまとめと補足といたしまして、富岡八幡宮、永代寺、深川不動尊をめぐる、不思議な縁起について、書いておくこととします。

深川公園にある永代寺跡の石碑。

左下写真の石碑にも刻まれているように、1624年ごろ、江戸時代の寛永年間に、長盛法印というお坊さんが、深川の永代島に、富岡八幡宮を、今の砂町にあった「砂村八幡」を移す形で、創建しました。そして、その長盛法印が、八幡宮別当、という形で、永代寺をも創建したのです。

八幡宮を創建したのは、長盛法印というお坊さんですが、いくら江戸時代が「神仏混交」だったからといって、お坊さんが八幡宮の神主になる、ということは無かったんでしょうね。というか、神主になるよりも、お坊さんでいたほうが、何かと有利、便利だったのかもしれません。で、自分の居場所として、永代寺を「八幡宮別当」として創建しました。つまり、八幡宮は、創健者である長盛法印の創った永代寺の支配下にあったのです。というか、八幡宮のオーナーは、長盛法印であり、その彼のいたのが、永代寺、なのです。

旧「吉祥院」の現在の永代寺。

古地図で見ると、八幡宮より永代寺のほうがはるかに寺域が広いのはこのためです。八幡宮・永代寺のオーナーである長盛法印、そしてその跡を継いだ永代寺住職(子孫かどうかはわかりません)たちは、自分たちの居場所である永代寺のほうをどんどん拡大したわけです。江戸自体に名所であった庭園も、永代寺のものでした。

ただ、江戸の庶民には、永代寺より江戸三大八幡のひとつとされた「富岡八幡宮」のほうが有名で、人気があったようです。有名であった「永代寺庭園」の山開きの模様も、江戸名所図絵には、「深川八幡山開き」と記されていますし、八幡宮の近辺には、料理屋、水茶屋、遊郭などが立ち並んでにぎわっていましたが、これらもすべて、富岡八幡宮の門前町、としての賑わい、であったようです。

現在の富岡八幡宮

古地図には、現在の門前仲町界隈は、「永代寺門前町」と書かれていますし、永代寺のほうか八幡宮より、はるかに寺域が広いですから、八幡宮より永代寺のほうが、深川を代表する存在で八幡宮を圧していた、と現在の私たちは考えがちです。また、そういう説明をなさる方が、深川をガイドなさっている方には多いのですが、実際にはそうではなく、深川を代表して有名だったのは、富岡八幡宮であり、永代寺門前町の名前も、永代寺の圧倒的な寺域の広さも、これは全て、富岡八幡宮のオーナーが永代寺であったから、そうできたのです。

さて、その永代寺の境内に、五代将軍綱吉の生母桂昌院の希望で、成田山からお不動様が運ばれて「出開帳」が行われ、大人気を博し、その後、この「出開帳」はしばしば行わるようになります。

そして、明治時代に入ると、「廃仏毀釈」の嵐が吹き荒れるようになります。日本古来の神様を大事にし、仏様をぶっ壊せ、という政府の「国粋主義政策」です。これによって永代寺は取り壊され、廃寺となりました。

しかし、ここには謎めいた取引があった模様です。永代寺は廃寺になり、寺は全て取り壊されましたが、廃寺になった永代寺の住職はそのまま、富岡八幡宮の宮司になりました。もともと、永代寺住職が八幡宮のオーナーだったからこそ、それが可能だったのです。そして、取り壊された永代寺の敷地は、そのまま、富岡八幡宮が引き継いだのです。つまり、永代寺側は、なにも損をしていない。もちろん永代寺の建物はなくなりましたが、その敷地はもらって、その土地を現在の門前町に開発したわけですから、損とはいえません。要するに、政府としては、「廃仏毀釈」の象徴として、八幡宮のオーナーだった永代寺を「取り潰す」ことにしただけで、結局、永代寺は何も失っていないのです。

「吉祥院」の境内に建てられた、という深川不動堂

これだけではありません。永代寺の中にある小さいお寺、塔頭であった「吉祥院」だけは、かなり広い寺域を維持したまま、残されました。そしてその吉祥院の境内に、「出開帳」で人気を博したお不動様のお寺が、「深川不動尊」として、明治14年、現在の場所に建てられるのです。あたかも、深川不動尊を建てるために、吉祥院を残したかのようです。そして、深川不動に敷地のほとんどを譲り渡した、その吉祥院が明治29年、名前を「永代寺」に変えて、現在に至ります。

まあ、これが、深川を代表する「富岡八幡宮」「深川不動尊」「永代寺」の縁起です。今まで折にふれて書いてきましたが、こうやってまとめてみると、わかりやすくなりましたでしょうか。しかし、実に面白い、不思議なお話でしよう?深川にいらしたときには、こんな薀蓄をたれると、楽しいですよ、きっと。

(この記事は2007年に書かれたものです)

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